道後温泉とTATTOO


10月の中旬、海路 呉から松山のパック旅行に参加した。その夕方、道後温泉本館の神の湯で新鮮な経験に遭遇した。ここは刺青がOKなのである。
2千年の歴史を誇る道後温泉本館聖徳太子も入浴したとか伝えられている日本屈指の温泉。

僕は元来公共の銭湯は好きではなかった。27まで大阪の南河内の長屋で育ち、銭湯に通った経験は余り心地よいものでは無かったからかも知れない。


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そして今、この神の湯、引き戸を開けて風呂場に入った瞬間のイメージは2千年の歴史を感じさせる立派なものであった。高い天井に広い浴槽、芋の子を洗うと言う程では無いにしてもかなりの入浴者が湯煙の中にいた。
洗い場で先ず体を洗うべく座った。一つ隣の大男、身体を洗っている。一見して西洋人、少し動作が普通より大きい。自然と声が出た。
何処から来たんですか?と英語で聞いた。
「ドイツです」と彼は笑いながら日本語で答えた。僕はそうですか、と英語で答えた。そして彼の太い腕には見事な刺青がびしっと彫られていた。
頭を洗った後、横を見たら彼は既に居なかった。綺麗に湯具は整頓されてあった。残し物は無く、湯桶はきちっと風呂椅子にうつ伏せに置かれていた。

でも思った。日本は何処でも公共の風呂は、刺青の方お断り、ではなかったのかと?
風呂場を出たとき注意書きを確認した。 “迷惑行為はお断りします” とは書いてあったが、刺青の言及は無かった。

ホテルに帰って、夕食後ホテルの大浴場に行ったとき、再度確認した。“刺青の方、お断り” とはっきりと書いてある。一体この差は何だろうか?

大昔を思い出す。子供のころ通った銭湯は、色んな人がいた。当然、刺青の人も居たやろうし、皮膚病の人も居た、でも銭湯はそれが当たり前だったのである。増してや温泉は色々な疾病に効能が有る訳で、その目的の人を拒否するものではない筈。
当時、刺青は地域の文化とは言えないまでも、それ程の違和感は無かった。僕のあの頃の不具合と言えば水虫をもらった事位かな。

他方、現在、全く異なる人種の人達が日本の温泉に押し寄せてきている。
海外での生活が長かった自分にとっても驚きの現象である。東洋人、西洋人を問わず自分の裸を公衆の前で晒すことは彼らの文化に於いて極めて異例なのである。
今や、そんな旅行者が日本の温泉を目指してやって来る、これは極めて驚嘆すべき現象と言わざるを得ない。ある種の挑戦と言うか勇気が必要な行為である。


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今、日本人を含めツーリズムは、物見遊山型から体験型に変わってきている。特に諸外国からの人は、貪欲に日本固有の文化を体験すべくやって来る。

その真新しい体験をSNSで発信し、情報を共有した人たちがそれに感銘して、類が類を呼びこの場所に行きつくと思われる。
日本人が発信する情報では無いと言うころが興味深い。
道後温泉でも、団体客は殆ど見なかった。繰り返すが、形態が団体から個人旅行に変わってきている。
当然、彼らは温泉のルール等も、事前にブログ等を通じてかなり熟知しており、先ほどのドイツ人もしかりである。
刺青で入れる温泉、と言うタイトルのブログも多々公開されていて、関係する人にとっては貴重な情報源であろう。
尤も、ブログ等の情報には過ちも多い。中にはそれでトラブルを起こす人も居るやも知れぬ。
そこで受け入れる側には “おおらかな思いやり” が求められるのかも知れない。

おもてなし、と言う言葉が余りにもサービス産業で独り歩きしているように思える。僕はその言葉が余り好きではない。英語にするとホスピタリティ、サービスのプラスαと一般的には解釈されるようであるが。
この言葉の持つ意味はもっと奥ゆかしいものではないか、と思う。声を大きくしてこれはおもてなしです、とアピールする類のものではないと思う。
他方、我々受け入れ側の日本人の感覚はどうか、と言うとネットなどの書き込みを見る限り、残念ながら世界の流れに逆行するようなご意見が多々有るようである。
特に、刺青に対するアレルギーは深刻かも知れない。
日本古来の刺青と、西洋の文化に根差したファッションであるTATTOOは別物、と言う理解は出来ないものか?

翌日の朝、道後温泉駅まで散歩に出かけた。
この小さなターミナルである駅周辺は、まるでメルヘンの世界の様。沢山の観光客が既に駅の周辺にたむろしていた。


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湯籠を手にし、ホテルの浴衣を羽織った外国人、駅の前から続く商店街の入り口では猫が観光客を出迎えている。別に愛嬌を振りまいている訳ではなく唯、店先で座っているだけ。まさに猫と言うべきか。
坊ちゃん列車のピーッと言う汽笛に集まる人達。


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とにかく、ここは平和である。それが一番かも知れない。